(アキラさんがカズキMEDを迎えた後のお話)
全てがうまくいく訳じゃないって知ってたけれど。
「、暇だー遊べよー」
「今日仕上げる書類の山が消えたらね」
後ろからかかる声に、返事をすると
間髪入れず、首にまわされる腕と重み。
椅子越しに抱きしめられている。
「いーじゃん、ちょっとは休憩しろよなー」
「…タクトが手伝ってくれたら多少は早くなるだろうけど」
「ムーリー。だって今おれだもん」
タクトの声で、そう返す彼。
レスポールと私は認識しているけれど、端から見ればタクトが私を抱きしめているように見えるだろう。
「あ、今びくってした。ここ弱いのかー」
「レス、おとなしくしてて」
とりあえず彼の方を向いてぎゅっと抱きしめると、不満そうだけどなんとか放してくれた。
拗ねた顔のタクトなんて、一生見ることないと思ってたのにな。
紅の世界、青の世界。
タクトはアキラちゃんを救う為に紅に染まり
残るゼクスは、アキラちゃんを守る為に青を貫いた。
月まで飛んだVOXは激戦の結果、堕ちてしまったけれど、
彼女は、カズキを「選ぶ」ことで青の世界を選択した。
…いや、青だけじゃない。滅び行く紅の世界の住人も受け入れ、新しい世界を作り出している。
サブスタンスは消えることなく、今もメインスタンスとつるんでは笑っている。
彼を、除いて。
タクトは、世界の選択後LAGで膨大な書類を処理している。
それが今出来る償いであると言い、全てが片付いたら一度旅に出たいと。
しかし、タクトがタクトでない時がある。
「、白髪生えてるーババくさいなー」
レスポールは、あの日死に逝くタクトを救う為に(無意識だったらしいが)
彼の身体と、本来の意味での融合をした。
タクトとレスポールは、レゾナンスという次元を超え、溶けて混じってしまった。
決戦の頃はタクトの意識が勝っていたものの
こうして世界が選択された今、生き残った彼らはお互いの自我が鮮明になり「二重人格」といったスタイルに落ち着いた。
「抜いて」
「やーだよー」
私はというと、結局LAGで色々やっている。
ただ機械と一日中向き合う生活から、書類と一日中向き合う生活に変わっただけ。
根本的には、変わらないのだ。
ただ、彼が帰ってきて…ほっとしている自分を認めることにした。
タクトはもちろんだけど……レスポールが、姿形は違えど生きていることが嬉しい。
あの日の喪失感は一生忘れないし、彼が戻ってきたときの喜びも、忘れない。
まぁ、ちょっとだけタクトの時のタクトと、気まずいんだけど。
紅く顔を染めた彼を見ると、申し訳ないというか私も複雑になる。
というか、帰ってきてからの彼は何故かスキンシップが多く、少し困惑している。
多ければ多いほど、タクトの時に凄く話しにくい。
だけど、全てがうまくいくわけないって、言い聞かせて。
今が私の幸せなのだと。
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