ふたりきりの部屋に、立ち上る湯気。
「ヘイ、、Trick or Treat?」
メンテナンス室に入ったミーが目にしたのは、
いつも通り端末を操作している彼女の背中だった。
「カズキ、サブスタンス達ならみんなの部屋に行ったと思うけど」
「ミーはユーに会いに来たのさ!フッフー」
相変わらず操作を続けながら、ミーの行動に対して突っ込みを入れてくる。
それに対してミーは慣れた足取りで彼女の後ろに置いてある椅子に座る。
彼女が一段落付くまで仕事を中断しないことなんて、ずっと前から知ってるからね。
「、貴女もコスプレ略さずコスチュームプレイしちゃってるんだね」
「……まあ、一応は」
後ろ姿から判断しただけなんだけど、
白いワンピースなんて、初めて見たかもしれない。
なんだろう…幽霊のコスプレだろうか?
ちなみにミーは狼メンさ!ワフー!!
「ねぇ、何のコスプレかミーに教えてティーチングしてくれないのかい?」
「……」
操作を続けていた手が止まる。
彼女が、こちらを向く。
「…うん、ミーびっくり。驚きピーチのキーキーキー」
「そう、それは良かった」
振り向いた彼女の口は、あり得ないところまで裂けている。
…ように化粧が施してあった。
少し、心拍数が上がったことは否定しないよ。
「成る程……口裂けレディだね」
「私にぴったりでしょう」
離れてみれば笑っているようにも見えるその化粧は、
ハロウィンだからこその、自分への皮肉なのかもしれない。
そう思うと、今の彼女だって、少し笑っていたような気がした。
「それで、もう一度言わなくていいの?」
「ん?」
「別に、良いけれど」
妙に今日の彼女はノリが良いようだ。
ミーが遅れをとってしまうなんて。
「…では、、Trick or Treat?」
改めて彼女に問うと、彼女は立ち上がり、奥へと進んでいった。
「少し待ってて。答えはTreatだから」
どうも、炊事スペースに行ったらしい。
…こうもうまく行くとアフターが怖いっていうけど
ミーはそれをリアルに体感してるね。ああ怖い。でも、少し楽しんでるところもあるかな。
少しして、彼女がお盆を手にして戻ってきた。
そこからは、湯気が立ち上っている。
「夜のティーパーティーかい?」
「……そうね」
差し出された紅茶と、クッキー。
クッキーはきっとヨウスケ手製のものだろう。
「これ、ハーブティーかな?」
「そう」
ほのかなレモンの香りが、ミーの鼻腔から体内への広がる。
茶葉の名前は知らないけれど、美味しそうだ。
「ありがとう、頂くよ」
ほんのり甘さを感じる、爽やかな味。
力が、抜ける。
「カズキ専用ブレンドよ」
「え……」
「美味しい?」
昔に戻ったような、そんな少し意地悪な彼女。
彼女の顔は相変わらず無表情だけど、言葉にはあたたかさがこもっている。
「うん…美味しいよ、とってもね」
笑いかけると、彼女は頷いて、紅茶に手を伸ばした。
「…あなたでしょう、今日の計画を立てたのは」
「ハロウィンパーティーのことかな?…そうだけど、それがどうしたんだい?」
「……みんなの息抜きになれば」
ドクン
いきなりの指摘に、心臓が跳ねる。
「最近戦闘が多くなってたみんなの息抜きに、でしょう?」
「……僕は貴女がたまに怖くなるよ」
「元後輩のことくらい少しは知ってないと、ね」
カップで、彼女の顔が見えない。
「貴方が一番、今気を張っている。だから」
これを飲んだら、ゆっくり休みなさい。
そう、降り注いだ声は、どこまでも優しかった。
口裂け女のリップサービス
怪物同士の秘密の夜だから
明日になれば、もとどおり。