「うっわ、大変よ、ちゃん」






久しぶりに、声をかけられた気がする。






「……、久しぶり、デュセン」
「えぇかなり久しぶりよね。アナタ今ひどいわよ、目の下…ペイントしてるみたい」
「…さすがに、ねむい」






メンテナンス室と、その奥にあるもう一つの部屋。それが私の主な仕事場だ。
いつもはその二部屋と自分の部屋を行き来する日々を送っているけども、
ここ最近、定期検査と新規搬入と開発と…まぁとりあえず仕事が増えて
ひたすら奥の部屋で仕事続きだった。




「何日寝てないのよ…前に会ったのが…えーと…」
「おぼえてない…」
「そんなので部屋なんて戻れないでしょ。ここで休んでいきなさいよ」
「…い、や…多分、起きれないから海に突っ込んでくるわ」
「溺れるわよ!?」








デュセンに別れを告げて、メンテナンス室を出る。
あー、ちょっとやばい。ねむい。




特に誰とすれ違うこともなく、海へと向かう。
流石に挙動不審だろうから、会わなくて助かったな。








LAGを出ると、潮風のにおいが濃くなる。
それに、まぶしい。
私の電源が落ちる前に、早く海に…入ろう






…♪……♪♪…




近付くにつれ、優しい旋律が耳に届く。
きっと、カズキだろう。
少し歩けば、カズキの後ろ姿がぼんやりと見えてきた。
…このぼんやりは、眠気もあるな…




…♪♪…♪♪♪






眠気を促す訳でもなく、吹き飛ばす訳でもなく
ただ優しく包み込むような、メロディ。
初めて聴くその曲に、思わず足が止まる。


仕方ない、聴き終えてから海に突っ込もう。
近くにある木陰に座り込んで、耳を傾けた。








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「…エクセレントッ!」






今し方弾き終えた曲の素晴らしさに、思わず身震いしてしまう。
この曲なら、誰もがスマイル0円になっちゃっちゃで某ショップはあっちゃっちゃに違いない。
……この曲なら、彼女も笑ってくれるだろうか。






「ん、あれは…」






ふと、振り返ると少し離れた木陰に、考えていた彼女の姿がある。
…いや、まさか。でも。






「……ハハッ、貴女は…凄いな…」






聴いてほしい時に、聴いてくれるのだから。
…木陰で休んでいる彼女は、眠りの森へ旅立ってしまっているけど
それがミーのミュージックによってもたらされたことと、不思議と確信してしまう。
(自意識過剰なんて言わないでおくれよ)




木陰であることを差し引いても彼女の顔色はバッドなカラー一色だ。
…忙しいのだろう。技術科で共に過ごした時も、仕事に追われていた彼女だから。
……どうか、今だけは。
一時でもいい、平穏に身を委ねて心安らかに。






腰を下ろし、彼女の隣に座る。
ああ、ここからミーをウォッチングしてくれたのか、なんてシンキングしてると
ふと腕にかかる重み。横を見ると、こちら側に頭が傾いている。






「……もっとスイートに、甘えてくれていいのにね」






ああ、でもこれじゃあ動けないな。
なかなかひどいことをしてくれる。




自分の口角がつり上がるのを感じ、重症だな、と漏らしてしまった。








君の安らかな眠りが終わるまでは、傍で守らせて。
(貴女の悪夢が終わるまで、傍で支えさせて)








眠りの海の騎士






君が起きるまで、さっきの曲をスコアに起こそうかな。
(ゆっくり、書くから。ゆっくり、おやすみ)